今年最初の道場めぐり、今回は長野県塩尻市で活動する空寿会にお邪魔した。
長野県の中央部に位置し、北アルプスや中央アルプスなどの山並みが背景に広がる塩尻市。かつては中山道や北国西街道の宿場として栄え、現在は葡萄や林檎などの生産が盛んである。今回訪れた「空寿会」はその塩尻市の体育館を拠点に活動する長野県唯一の和道会支部だ。
「空寿会」は、師範の荻澤充夫先生が昭和47年6月1日に創設した。同じ長野県内で浅間山荘事件が起きた年である。昨年に節目の30周年を迎えた歴史ある道場だ。門下生の数は、多いときで約90名在籍したが、時代と共に減少して一時期は1人にまで落ち込んだという。現在は小学生を中心に25名程が在籍している。
以前は長野県内に多数の和道会支部があったが、現在は「空寿会」だけとなった。近年、県内の子供全般に空手離れが進み、特にサッカー人気に押されているという。先生は「空寿会師範としてだけでなく、和道会長野県本部長としても、今後少しずつ門下生を増やしたいし、増やせないまでも今の人数は維持したい」と思いを語った。
指導方針を尋ねると、「勝つことにもこだわるが、それよりも身につけている『空手道衣の中身』にこだわって指導している。真っ白い道衣に身に纏うことができる人間でなければ武道をする資格はない。だから躾に関しては大変厳しいです。」と答えてくれた。その厳しさは稽古を拝見して実感した。
稽古中、門下生たちは常にキビキビと行動し、大きな声で挨拶や返事する。先生の厳しさが伝わってくる。そして門下生たちの集中力にも驚かされる。稽古は2時間半だがそれ以上に内容が濃い。また、この道場では3歳から40代までの帯の色も異なる20数名が終始一緒に稽古を行う。一番激しい打ち込みの稽古も例外ではない。まず、門下生が台を務める先生に本気で打ち込む、次に門下生同士が台を交代しながらお互いに激しい打ち込みをする。小さな子供も大人を相手に一生懸命だ。
先生は「空手はあくまでも武道で、相手を倒すためのものだ。倒すことを恐れては武道はできない。恐れるなら空手などやめた方がいい。但し、競技会の場合は定められたルールがあり、それに則って試合をしなければならない。それ故、道場では武道、競技会ではスポーツという使い分けが必要だ」と言う。空寿会の空手が和道流の空手なのだと改めて実感した。
ところで、この道場は保護者の方々から多くの面で協力を得られており、それが大きな支えになっているという。これは、近頃会話が少ない家庭が多いので、保護者の方に積極的に稽古場へ足を運んでもらい、共通の話題を作ってほしいという先生の考えでもあるのだ。また、先生に勧められて子供と一緒に空手を習い始めたお母さんもいる。これも、一緒に稽古をすれば更にもう一歩踏み込んだ親子間の会話ができるという考えからだ。
先生が行っているのは単なる空手の指導なのではなく、空手を通した人間育成である。先生は「この厳しさが将来何かに役立ってくれたらいい」と語り、また「勿論、試合に勝つことも大切。人間の育成の延長線で空手家としての素質を持った門下生が出てくれば、それはその力を伸ばしてやればいい」とも語る。
確かに、今在籍している子供たちで、大人になっても選手として空手を続けていけるのは一握りかもしれない。それだけに彼らが『空手を通して得たもの』が何であったかが大切なのだろう。
「空寿会」は、荻澤先生の人柄そのままの厳しさと暖かさのある道場だ。
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